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第二話 神とピエロ

――それは、ある日のことだった。

荒れ狂う波がバギーの小さな船を容赦なく襲う。

「うわあああぁぁぁぁ!! やめろおおお海ィィ!!」

バギーは舵を必死に握りしめるが、波はそんな哀れなピエロに情けをかけることはない。

次の瞬間、巨大な波が船を呑み込み、バギーの体は空へと投げ出された。

「ぎゃあああああああ!! お、俺の華麗なる人生が、ここで終わ……!?」

視界が白く弾けたかと思えば、次にバギーが目にしたのは――

青い海ではなく、果てしなく広がる雲海だった。

「……えっ?」

重力がふわりと消えたような感覚。

次の瞬間、バギーはどさっと固い雲の上に落ちた。

「いってぇ~~……って、え、ここどこ!? 空!? オレ、死んだ!?」

慌てて立ち上がるバギーの目に飛び込んできたのは、見たこともない白い大地と、奇妙な建物が点在する空の島だった。

一方その頃、スカイピアの神・エネルは、黄金の太鼓を背に雲の上で欠伸をしていた。

「ふあぁ……退屈じゃのぅ……」

雷を自在に操り、誰も逆らえぬ“神”となった彼だが、退屈だけはどうにもならない。

頬杖をつき、ぼんやりと空を見ていたそのとき――

「……む?」

雲の向こうに、見慣れぬ赤と青の派手な物体がバタバタ動いていた。

近づいてみると、顔に赤い玉の鼻、青い髪、派手な衣装……

「なんじゃ貴様は……?」

「うわぁっ!? だ、誰だお前!?」

そう、バギーは運悪く、空島の神と呼ばれる男――エネルと出会ってしまったのだ。

バギーは自分の服についた雲の綿を払いながら、何とか威厳を保とうと胸を張った。

「ふ、ふふ……俺様は、偉大なる海賊、バギー様だ! この程度の空の島くらい、ちょちょいのちょいで来てやったんだぞ!」

エネルは眉をひそめる。

「……なに? この神の前でその態度……?」

「神ぁ? ハッハッハ! 俺様にとっちゃ、神もただの観客よ!」

その一言で、エネルの眉がピクリと動く。

「……調子に乗るなよ、小僧」

次の瞬間、空気がビリッと震えた。

エネルの太鼓から、雷が奔る――!

ドガァァァァァァン!!!

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

雲の上で見事に感電し、髪の毛がチリチリになったバギーは煙を上げて転がった。

しかし――

「……生きてる……だと?」

エネルは目を丸くした。普通の人間なら一撃で黒焦げになるはずの雷を、目の前のピエロは、泣きながらも生き延びていた。

「な、なんで……死なねぇの、俺……!? イテテテ……」

「……まぁよい。二発目で灰にしてくれるわ」

再び雷撃。

ズドォォォォン!!!

「ぎゃあああああ!!!」

それでも、手足がバラバラになりながらも、バギーは雲の上でピクピクと動いていた。

「……し、死なねぇぇ……! 俺ってば、超ラッキーかも……」

エネルは驚き半分、呆れ半分で、しばし雷を打ち続けたが――

十発目を超えたあたりで、さすがの“神”も疲れた。

「……ふぅ……貴様……なんじゃ、その妙な体は……」

バギーは、バラバラになった手足をゆっくりと集めながら、半泣きで座り込んだ。

「ハァ……ハァ……俺はバラバラの実の能力者なんだよ……雷とか……痛ぇけど……死なねぇんだよ……」

エネルはついに雲の上に腰を下ろした。

雷を撃っても撃っても倒れぬ男は、神にとって初めての存在だった。

「……面白いのぅ、おぬし」

「え……?」

「この神に退屈は大敵じゃ。……しばらく、我の相手をせい」

「はぁぁ!? 俺は忙しいんだよ! ……いや、でも帰り道わかんねぇし……」

こうして、空島の神と、しぶといピエロの奇妙な出会いが始まったのだった――。

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