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天上天下唯我独身

2025/10/26 22:42

朝は姉さんの声で目が覚める。
昨日も今日も、きっと明日も――私は姉さんに起こされる。

白い寝巻きに身を包んだ姉さんは、日本人のような黒く艶やかな髪を耳にかけて、
私の肩をやさしく揺すった。

「起きて、シャルロッタ」

薄く目を開ける。寒さで、とっくに目は覚めていた。暖房をつけているはずなのに部屋にまで雪が降っているようだった。

「先に朝ごはん食べちゃうからね?」
「うん、あとから行く」
「もう初期学校卒業するんだから、ちゃんと一人で起きなきゃダメよ」

姉さんはくすくすと笑い、指先で口元を隠した。

基礎学校になんて行きたくない。
ずっと姉さんに起こされて、子供のように撫でられて、笑い合っていたい。
時間が進むことが、こわい。

いつからだろう。
姉さんのことが、胸の奥でずっと引っかかるようになったのは。

「姉さん」
「なあに?」
「……ううん、なんでもない」
「ふふ、変なの」

寝間着姿の姉さんは、まるで私だけのお嫁さんみたいだった。

これから姉さんは背が伸びて、体重も増えて、おっぱいも大きくなって、体毛も濃くなる。体が変わっていく。
私もそうだ。
それが当たり前のことなのに――どうしようもなく、嫌だった。

大人になれば、姉さんはもう私の面倒を見てくれなくなる。
妹の私を撫でる手は、きっと誰か別の人のものになる。
きっと姉さんはお嫁さんになって、この手も私のものじゃなくなって、姉さんの子の物になる。

――こんなことを考えている時点で、もう子供じゃないのだ。

パンの匂いが鼻をくすぐる。
雪のように積もった独占欲が心の奥にとぐろをまく様に沈殿して、しばらくしたら気持ちの悪い吐瀉物になって体外に排出される。
かじかんだ自分の手が、やけに老けて見えた。
十一歳にしては、少し大人びすぎた手。

姉さんも、姉さんではなく「女」になっていく。
姉妹から、女ふたりになる。
年齢を重ねるたびに、その絆は少しずつ薄れていく。

呼び止めようとしたが、姉さんの姿はもうなかった。
結局、私は何も言えずにダイニングへ向かった。

😭
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