#物語を書こう!
よく人に褒められるから、絵を描き続けた。
こんな理由でも、俺には才能があったのだろう、大学に入るまで大した苦労はしなかった。
……そう、大学までは。
きっかけは、或るコンテストで1位を取れなかったことだった。
どうしてだと審査員に問えば、俺の絵からは「愛」が感じられないからだとへらへら笑いながら言われた。勿論、理解できなかった。しようとも思わなかった。
たまたま「愛」なんていう、主観頼りの偏った審査員に当たっただけだ。くだらない。
このときの俺は心底そう考えていた。
けれど、そのコンテストを皮切りに、俺の絵は評価されなくなっていった。
俺は焦った。「愛」なんて知らないからだ。俺には好きなものなんてない。今描いている絵でさえ、勧められたから描いているだけなのに。
「愛」ってなんだ?
最初から「愛」を持っていない人間は、一体どうしたらいいんだ?
途方に暮れた。しかし、俺は描き続けた。これ以外の選択肢が俺にはなかったのだ。
俺は何処までも空っぽだった。
そんなことにさえも今更気が付いた。
俺の絵は見向きもされなくなった。
暗いアトリエで独り、それでも描き続けた。
明くる日突然、ぱちりと緩慢に瞬きをした瞬間に俺は気が付いた。
もし俺が愛をもっていたら、こんなに虚しくはなかったのだろうか、と。
・・・
数週間後、ポストに郵便物が詰まって入れられないという理由でドアを叩いた郵便配達人が、首をくくった男の死体を発見した。
その足元で、イーゼルに立てかけられたままだった大きなキャンパスは、油性絵の具の黒一色。
後に鑑定者から付けられたその題名は、
………「愛」。
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