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ダイキュリー

2024/5/7 21:10

#物語を書こう!

私を創った博士が死んだ。

天才とも、奇人とも称される変わり者と呼ばれる博士。戦争中なのに、誰も使わない平和な私を創った博士。家事ロボットなのに、私には全く家事をさせようとせず、逆に私の世話を焼いてばかりだった博士。

継ぎ接ぎできる私よりもずっと不可逆的な命なのに、博士は私を庇って呆気なく死んだ。

博士がいなくなって、やっと初めて私は私の仕事である家事をしようとした。けれど、何一つとしてできなかった。私は食事も洗濯も本来必要ない。だから、できない。けれど片付けだけは、理由もなくできなかった。余計散らかった家の中で、私は博士が毎日丁寧に与えてくれていた存在意義を、ぼんやりと見失いかけていることに気付いた。

「私は…何者なのでしょうか」

家事もできない。主も守れない。私には一体何ができる?私は…一体何なのか。

「教えて下さい…博士」

答えてくれる声は無い。私は一人でその場に蹲った。体がどうしようもなく重たく感じられ、ゆっくりと床に座り込む。その時、散らかった床の上に一つの手紙が落ちていることに気が付いた。

「これは…博士のものだ」

手に取り、宛名を見てから勢いよく中身を取り出す。

『驚かせるかもしれないが、これは遺書だ。
もし私の生きている間に見つけてしまったのなら、私に伝えてほしい。そうでないならば、どうかそのまま読み続けてくれ。

君は私の自己満足の結果生まれた機械だ。周囲からの称賛の為、私は前代未聞の人間に最も近しい君を創り出した。愚かしいことこの上ない。

けれど、君と初めて会ったときから私にとって君は何より大切な一人の人間となった。少し過保護になりすぎているかもしれないが、それ程君のことを愛しているのだ。許してほしい。

言葉を尽くせばきっと格好がつかないだろうから、短く済まそう。

どうか、幸せになってくれ。

親愛なるディア、私の最愛の息子。』

「…そう、か」

喉の奥が詰まって上手く息ができない。唇を固く閉じた代わりに、瞳からは絶え間なく涙が溢れていた。

「私は…愛されていたのですね」

親愛なる博士。貴方に恥じぬ息子でいましょう。だからどうか安らかに。

「おやすみなさい、博士」

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