蜜柑🍊

2025/10/30 20:56

平民から軍人として武勲を立てて上流階級まで上り詰め、特権階級を恨み国家転覆を目論むリアンと、生まれながらの上流階級華族で特権階級の中でも上位存在の椿が政略結婚する。
リアンは椿との婚約について内心反吐が出そうな程嫌だったけど椿の特権を利用しなければ入り込めない深部がある為即決した。
椿は平民上がりの男へ宛てがわれる話をされても眉を顰めさえしなかった。十数年前、前を横切っただけの平民の子供に激昂して家族ごと虐殺させた特権階級の者を目撃してからは血筋を恥じており、自分の行く末に興味も無い。
顔合わせの日、リアンの屋敷へ辿り着いた椿を迎える者は居らず、憤慨する従者を宥め、初めて開けられるのを待たずに自ら扉を開けた。そこで正面にある階段の一番上から此方を見下ろすリアンと目が合い、隠す素振りも無い特権階級への憎悪と不信の眼差しに気付いた椿はリアンが媚び諂い擦り寄る者とは違う事に心の底から安堵して笑みを浮かべる。
リアンは「所作からも痛い程分かる。貴様はどれだけ甘ったれた環境で蝶よ花よと育てられてきたんだ？」と嘲笑い「特権階級の女は夫とやらに逆らえないように作られてるんだろう？全く、生産性の無い話だな。これからは形なりにも夫婦なんだ。その芝居じみた気色悪い笑みをやめろ。」と椿を睨みつける。「私達に搾取されながら貢献し、武勲を認められ、貴方が大嫌いな私達と同じ壇上へ態々来ると言うのは、些か不思議なお話だと思いませんか？何か目的があるみたい。例えば、国家転覆なんて＿＿。」リアンは怖気付くことも無く言い放つ椿に咄嗟にいつも隠し持っているピストルを向け、「黙れ。貴様ら特権階級の賢ぶった言う事には反吐が出る。」と怒りに震える声を出しても椿は依然として笑みを浮かべて「形なりにも夫婦なんですから何でも仰ってくださいね。私は貴方の思う様に利用してくれて構いません。」と階段を登りながら上機嫌に言う。

「もし助けが要るとして、私が特権階級の女に擦り寄って頼むと思うか？馬鹿言うな。貴様らに貢献したのと同じ道具で脅すだけだ。今こうしてるようにな。」
「でもちっとも怖くない。私、生まれは特権階級だけど貴方と同じ思いなんですよ。きっと信用してくれないでしょうけどね。」
「信用も何も。貴様がお仲間に泣き付く未来しか見えないが？」
「私を助けてくれるお友達なんて居ない、皆が見ているのは生まれ持った特権だけですもの。」
「あゝそうか可哀想とでも言うと思ったか阿婆擦れ。私は信用しない。特権階級は真実は一言も発さずに嘘ばかり吐く塵共だ。」
「気持ちは分かるのでそれでも良いです。取り敢えず、何があっても私を生家に送り返すのだけはやめて。あんな家の敷居なんてもう跨ぎたくないのです。それ以外なら何でもしますからね。私、こう見えて剣術と狙撃は学園内の男女含めても一番優秀でしたから、最前線に放り出してくれても自信あります。」

のし上がってから、数々の特権階級の中でも一度も会った事が無い部類の女が嫁に来て想定外が続き思考を巡らせながら、ピストルを下ろせないままでいると、椿はレースのハンカチを取り出してピストルに汚れが付かないよう配慮しながら掴み、自分の胸に当てさせる。「私は貴方に認めて貰えるまで諦めないことを誓います。最善を尽くして、貴方のように貢献を信頼に変えてみせます。どうか目を離さずにご覧になってくださいな。」穏やかな表情に似合わない覚悟を宿らせた瞳がかつての自分と重なり、目を逸らす。

二年後、準備が整いクーデターを起こした時に特権階級の一人を暗殺する為に遠方へ行った椿が忽然と消える。準備を整える事が出来たのは椿の特権と正しい情報の賜物で体の関係も結んでいたから、少しずつ信頼へと移行していた気持ちが揺らぎ、待てど暮らせど戻って来ず、やはり特権階級は特権階級なのだと落胆する。クーデターが成功に近付き、リアンにとっての理想が現実に変わり始めた六年後、居なくなった時から全く変わっていない椿がふらっと現れ、暗殺が成功した直後にヘマをして見つかり生家に連れ戻されていたと語る。リアンは椿を信用出来ず、冷たくあしらうが突き放す事も出来ず以前のようにもう暫く傍に置く事に。本当はヘマなんてしていなくて、暗殺を完了してからは捜査から逃れる為に二ヶ月は潜伏期間としてその地に留まる規則に従っている間に身篭っていた事が発覚。何よりも特権階級の血を憎み自分をよく思わないリアンを近くで見てきた椿は言い出すことも出来ないまま姿を消すことに。生まれが駄目なのならせめて育ちは平民であって欲しくて、名前と誕生日を書いた紙と共に孤児院に預けてそこを見下ろせるアパートを借りて見守っていた。ある日、上位存在である特権階級だけが持っているルートからクーデターを鎮圧する大軍が編成されつつあると聞き、急いで戻って来た。しかしリアンは信用してくれず椿が情報を明け渡したからこんな事態になったのではないかと疑いの目を向ける。信用するに値するかの試験をする事になり、リアンが見ている中で昔交流のあった特権階級を暗殺させ、合格。椿はいつか家族で一緒に暮らしたくて何度も言いかかっているけど、敵が椿の肩に弾を掠らせたので一時退却した際、リアンが学園に子供がいるからと命乞いをする特権階級の夫婦を撃ち殺したのを見て全てが終わるまではと言い出せなくなる。

椿が返り血を拭うリアンに駆け寄り「子供が居るって言ってたでしょう。」と話しかけると、非難されていると感じたリアンは「好きに罵れば良い。所詮貴様は特権階級なんだろう。」とぶっきらぼうに言って、椿の悲しそうな目に耐えられなくて乱暴に肩を掴み壁に押付けて「飢えも知らずに肥えただけの特権階級の子供なんて居ない方が良い。昔は椿も同意していただろう？それとも連れ戻されていた間に変わったのか？貴様が裏切りものじゃないこと、次はどう証明するんだ？」と怒鳴り、椿は怪我をした肩を強く掴まれて思わず「や、やめｯ、痛いっ！」と叫ぶ。そこで我に返ったリアンは即座に手を離し椿の血が着いた手と肩を交互に眺めた後「...撃たれたのか。」と低く唸るような声で問いながら上着を脱がせて傷口に消毒液をかけて綿で拭き、包帯で応急処置をしていく。椿は消毒液の痛みに耐えながら経緯を説明して撃った者は既にトドメを刺したことも付け加える。

まだ言えない。そう思いつつ、どうしても聞きたくなって包帯をきつく締めて止血しようとしているリアンに「貴方は特権階級を恨んでいるけれど、もし私達に子供がいたとして、育てたなら、子供も同じ特権階級と仰るんですか？」と尋ねる。リアンは怪訝そうな顔をして「椿はそうするのか？」と包帯を結びながら見極めるように椿と目を合わせる。「たらればですよ。」と笑ってみせるけど頭の中はいつも置いてきてしまったあゝのことばかり。

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