Latteアプリで見る Latteアプリのダウンロード
<「創作とキャラ語り等(入る、投稿、リアクション○)」トップに戻る
「よるねこ@おえびじゅ」のユーザーアイコン

よるねこ@おえびじゅ

2026/3/6 17:29

天宮透羽は、今日も憂鬱な学校へ向かっていた。
教室のドアを開けると、ざわりと空気が揺れる。
もう慣れている。
机の上には、昨日より少しだけ増えた落書き。
椅子の脚には、見覚えのない傷。
透羽は何も言わず、そっと席に座った。
(……大丈夫。いつものこと)
背中の後ろで、二股に分かれたしっぽが小さく揺れる。
生まれつきのそれは、透羽が“普通じゃない”理由として、みんなに十分すぎる材料だった。
「マジ目障りw」
「ほんと、なんで来てんの?」
笑い声が刺さる。
でも、透羽は顔を上げない。
慣れっこだから。
――そのとき。
「おーい透羽!」
教室の空気が一瞬で変わった。
振り向くと、廊下から手を振る少年がいる。
黒野光輝。
クラスは違うのに、毎日のように顔を出してくる、唯一の親友。
「今日も一緒に帰ろうぜ!」
太陽みたいな笑顔に、透羽のしっぽがほんの少しだけ大きく揺れた。
「……うん」
小さく頷く。
それだけで、今日は少しだけ大丈夫な気がした。
それからの日々は、相変わらずだった。
悪口。
無視。
机の傷。
そして――少しずつ、悪意は形を持ち始めていた。
ある日の昼休み。
ひゅっ、と空気を裂く音。
次の瞬間、透羽の頬に鋭い痛みが走った。
「……っ」
何が起きたか理解する前に、視界がにじむ。
遠くで、誰かが笑っている。
「避けろよなー」
透羽は何も言わなかった。
言っても、何も変わらないから。
(……光輝には、言わないでおこう)
あの優しい怒りを、もうこれ以上見たくなかった。
その週、透羽は光輝とたくさん出かけた。
放課後のアイス。
少し遠いショッピングモール。
どうでもいいことで笑った帰り道。
光輝は、何も知らない。
でも時々、不思議そうに透羽を見る。
「透羽さ、最近なんか…」
「ううん、なんでもないよ」
透羽は笑った。
いつもより、少しだけ優しく。
そして、一週間後の朝。
まだ誰も来ない林の奥で、透羽は空を見上げていた。
木漏れ日が、やけにきれいだった。
(……楽しかったな)
アイスの味。
光輝の笑い声。
並んで歩いた帰り道。
胸が、じんわり温かくなる。
同時に、どうしようもなく苦しくなる。
透羽はそっと目を閉じた。
「……さよなら、世界」
少しだけ間を置いて、
「……光輝」
小さく、名前を呼んだ。
翌日。
黒野光輝は、なぜか朝から落ち着かなかった。
理由は分からない。
ただ、胸の奥がざわつく。
(透羽……?)
放課後。
いつもの帰り道。
林の前で、足が止まった。
風が吹く。
その先に――
見覚えのある、ふわりとした二股のしっぽが揺れていた。
「……は?」
一歩。
また一歩。
近づくほど、胸の奥が冷えていく。
そして。
「…………透羽?」
世界の音が、消えた。
それからの光輝は、別人だった。
教室で机を蹴り飛ばし、
廊下で怒鳴り、
テストの答案は白紙のまま。
「お前らぁ!!」
教室が静まり返る。
「人の心っちゅうもんはあるのかよ!?」
震えていたのは、声だけじゃない。
拳も、肩も、全部。
ある日、いじめていた生徒たちが頭を下げた。
「……私たちのせいで、天宮くんが……」
「……本当に、ごめんなさい」
光輝の目が、ゆっくり見開かれる。
「あぁ?」
低い声。
「言葉だけで許されるわけねぇだろうが」
叫んだあと、顔を背けた。
誰にも見えない角度で、
ぽたり、と雫が落ちた。
数日後。
光輝は、花屋の前に立っていた。
「……こいつ、透羽好きだったよな」
淡い色の花束を一つ。
ぎこちなく抱える。
空は、やけに青かった。
マンションの屋上で、風が吹く。
光輝は空を見上げて、小さく笑った。
「なぁ、透羽」
胸が痛い。
でも、足は止まらない。
「ずっと友達って、約束したよな」
一歩、前へ。
「……今、行く」
風が強く吹いた。
――そして。
世界が、静かに途切れた。

コメント(0)

メッセージを入力…

アプリからのみです

送る